
夫婦関係の問題に休息はありません。こんな時どうしたらいい?誰にも相談できない夫婦の悩みをちょっとだけ軽くできたら。LifeDesignLaboの読む夫婦カウンセリングです。

「家事も子育ても、あなたは何にもやっていないじゃない!」
仕事で疲れ果てて帰宅した夜、あるいは自分なりに育児をこなした週末、妻からそんな言葉を投げかけられたらどうしますか?
「何もやってないことはないだろう。ゴミ出しだって、送り迎えだってやってる」
「自分だって外でこれだけストレスに晒されて働いているんだ」
精一杯の自負があるからこそ、事実と異なる指摘には反論したくもなるものです。でも、その反論がさらなる炎上を招くことを知っているから、モヤモヤを抱えたまま黙り込んでしまう。そんな「静かなすれ違い」にハマり込んでいる夫婦は少なくありません。
「認知バイアス」という名の眼鏡
私たちには、「自分の貢献は大きく、他人の貢献は小さく見積もる」という心理バイアスが備わっていと言われています。
自分が掃除機をかけた事実は鮮明に記憶に残りますが、妻が毎日名もなき家事(ストックの補充や献立の検討)をこなしている姿は、日常に溶け込みすぎて見えなくなります。これは妻側も同様です。「私は24時間体制なのに、あなたは数時間だけ」というフィルター越しに夫を見れば、夫の努力はまるで「ゼロ」に見えてしまうのかもしれせん。
でも、この問題の本質は、単なる「作業量の見積もり違い」だけではありません。
「目に見えるタスク」と「見えない責任」の壁
反論したくなる夫側が数えているのは、主に掃除、洗濯、送迎といった「物理的なタスク」です。対して、妻側が訴えているのは、それらの作業の裏にある「終わりのない判断と責任」、いわば「心の労働」です。
例えば「夕飯を作る」というタスクには、見えないところで冷蔵庫の在庫管理、栄養バランスの考慮、子どもの好き嫌いの把握、買い出しの段取りといった膨大な「思考」が走っています。
妻が「何もやってない」と憤る時、それは「作業労働を担っていない」ことへの不満ではなく、「この『考える責任』を私だけに背負わせている」という悲鳴であるケースが多いのではないかと思うのです。
「オレだって外で責任を背負っている」
ここで、男性側からは強い反発があるかもしれません。「自分だって、仕事で終わりのない判断と責任、プレッシャーを背負っている」でも、それを家庭に持ち込んでないじゃないか、と。
確かにその通りです。家族の経済基盤を支えるという「無言のプレッシャー」は、男性にとっての巨大な「心の労働」です。家の中で妻が大きな心の負担を抱えているのと同様に、夫もまた、外で大きな心の負担を抱えているはずです。
こうしてお互いに「自分の持ち場」でそれぞれ大きな負担を抱えている。だからこそ、相手の負担が見えにくくなってしまいます。
ここで重要なのが、「時間軸のズレ」という視点です。
「単年度決算」の夫と、「累計決算」の妻
男性は「今、この瞬間の分担」を重視する「単年度決算」で考えがちです。
いっぽう、女性の多くは、過去の積み重ねで判断する「累計決算」で感情が動きます。
特に、産前産後の「命を守る極限状態」で夫がどう動いたか。その時の強烈なネガティブな記憶は、たとえ数年経って今の夫が協力的になったとしても、簡単には消えません。
「何もやっていない」という言葉は、現在の行動への評価ではなく、「あの絶望的に辛かった時、あなたはどこにいたの?」という過去の未完了の感情が、今の些細な出来事をきっかけに溢れ出したものかもしれません。
正論で勝ちたいのか?良好な関係を築きたいのか?
「自分だってやっている」という反論は事実(正論)かもしれませんが、妻が求めているのは事実確認ではなく、「気持ちを分かってもらえていない痛み」を受け止めてもらうことなのかもしれません。
物理的な家事分担の話であれば、実際にそれぞれが担当している労働範囲をまとめて提示することで自身の正当性を示すことはできるかもしれません。
でも、正論で妻を論破できたとしても、夫婦関係へのポジティブな作用は期待ができません。ここは一度、自分の正論を横に置いて、妻の言葉の背景にある「気持ち」を受け止めてみることが重要です。
「あなたは何もやってない」その言葉の背景にある、彼女がこれまで担ってきてくれた負担の大きさに目を向けるきっかけにできたなら素晴らしいことです。
その上で、もし機会があればこれまでの献身に感謝を伝えられれば最高です。唐突感があって躊躇してしまうようなら、母の日や結婚記念日、誕生日などのイベントをきっかけに日頃伝えられない言葉を添えてみるのも良いと思います。
感情に時間軸はないので、今日の感謝には過去のわだかまりを和らげてくれる作用があります。
もちろん、「オレだって分かってほしい」という気持ちがあると、なかなかこうはできないかもしれません。それでもここはまず、自分から行動に移すことができれば、ふたりの関係をアップデートするチャンスがやってくるかもしれません。
その選択がまた、これからの夫婦の形を方向づけていくのではないでしょうか。